【サロンのための美髪と経営コラム】ジアミンアレルギー

皆さんは、ジアミンアレルギーのご知見やご経験はいかがでしょうか。
美容師さんがジアミンアレルギーになりやすいことはご存知ですか?
大切なお客さまやスタッフさん、そしてご自身を守るためにも
このアレルギーについて、あらためて考えてみましょう。
INDEX
ジアミンアレルギーのこれから
ジアミンアレルギーは、ヘアカラー(酸化染毛剤)などに使用される「パラフェニレンジアミン」などのジアミン系酸化染料がアレルギーの原因(アレルゲン)となるアレルギー症状です。
(※ジアミン系以外の染料や、カラー剤のその他の成分、カラー施術で使用するシャンプーやトリートメントなどによっても、アレルギーが起こる可能性はあります)
ジアミン系の代表的染料であるパラフェニレンジアミンは、染色性の高さなどから、長年にわたり広く使用されていますが、パラフェニレンジアミンによるアレルギーは、調査や報告などによると、40〜60代に多く確認されています。
またヘアカラーをくりかえし、長年問題がなかった人でも、数年から十数年後に発症するケースが報告されています。
※「毛染めによる皮膚障害事例調査」(消費者庁,2015)
※「染毛剤皮膚炎73例の臨床的検討」(JEDCA,2017)
※「染毛剤による接触皮膚炎の症例解析」(日本香粧品学会誌,2018)
※「ヘアカラーによるアレルギー性接触皮膚炎について」(厚生労働省,2022)など
日本でヘアカラーが一般化したのが2000年頃からで、その当時、最もヘアカラーを楽しんだ20~30代の方々が、いま40代以上となり、いわばジアミンアレルギー世代となっています。
そして現在は、10代からヘアカラーをすることも日常となっていますから、今後ジアミンアレルギーは、現在よりも若い層にも広がることが懸念されます。
厚生労働省からも「低年齢のうちに酸化染毛剤で毛染めを行い、酸化染料との接触回数が増加すると、アレルギーになるリスクが高まる可能性があると考えられる」との注意喚起がなされています。
このような時代を生きる美容師さんや私たちにとって、ジアミンアレルギーは、より一層、向き合う必要がある問題かもしれません。

二種類の皮膚炎と、二つの型のアレルギー
まず基本として、ヘアカラーで起こる皮膚炎(かぶれ)には「刺激性接触皮膚炎」と「アレルギー性接触皮膚炎」があります。
大きな違いとしては、異物(カラー剤)が肌に触れた時に、その異物のことを記憶し、免疫という防御システムが作動するか/しないか、という違いがあります。
誰にでも起こりえる「刺激性接触皮膚炎」
カラー剤という刺激物が接触した場所に、痛み・沁み(しみる)・赤みなどが起こる皮膚炎です。
カラー剤を洗い流すなど、原因の刺激物を取り除くと、症状は治まっていきます。
アレルギーとは関係のない反応で、その時の肌の調子によって誰にでも起こる可能性があります。
カラー剤を塗ると、チクチクしたりしますが、これはアレルギーというよりも刺激物が原因というケースが多く見られます。
一般に、刺激性では「痛み」、アレルギー性では「かゆみ」が現れやすい傾向があると言われています。
しかし個人差もあるため、施術中はお客さまの状態をこまめに確認しましょう。
発症すると生涯続く可能性がある「アレルギー性接触皮膚炎」
免疫は通常、有害な細菌やウイルスなどを撃退しますが、何らかの原因により無害な物質も異物と認識し、過剰反応する場合があります。これがアレルギーです。
アレルギー性接触皮膚炎では、肌に触れた物質を有害と認識し、撃退を行うそのあおりを受けるかたちで、かゆみ・赤みなどの症状からアナフィラキシーショックまで、さまざまな症状が現れます。
アレルギー性接触皮膚炎の一種であるジアミンアレルギーは、一度、肌の細胞がジアミンを異物として認識・記憶してしまうと、その後は少量のジアミン接触でもアレルギーが起こりやすくなります。
また、このジアミンアレルギーには「即時型」と「遅延型」がありますので、次はそれらをご紹介します。
即時型ジアミンアレルギー
肌細胞がジアミンを記憶したその後、再びジアミンが侵入してくると、急いで排除しようとすることで、カラー施術中や直後に、さまざまな症状が現れます。
症状としては、かゆみ・じんましん・くしゃみ・鼻水などから、アナフィラキシーショック(血圧低下・呼吸困難・意識障害)まで本当にさまざまです。
一般に即時型は、ヘアカラーでは起こりにくいと言われていますが、人により体質は違うため、いつも注意深く施術を行うことが大切です。
遅延型ジアミンアレルギー
肌細胞がジアミンを記憶したその後、再びジアミンが侵入してくると、時間をかけて準備を整え攻撃を行います。
症状は、カラー施術から早くて数時間後(約6時間後)から数日後(平均2日後)に、頭皮や周辺(顔・うなじなど)に、かゆみ・赤み・腫れ・ブツブツなどが現れます。重症化による脱毛の報告もあります。
カラー施術から時間が経って発症するため、原因を特定しにくかったり、症状が軽い場合見過ごしたりすることで、ヘアカラー回数を重ねて重症化してしまうケースも見られます。
また、厚生労働省の注意喚起にもあるように、接触回数の増加はアレルギーリスクを高める可能性があると考えられています。
たとえ現在は問題がなくても、誰でも将来的にアレルギーになる可能性があることを、忘れてはならないと思います。

美容師のジアミンアレルギーと交差反応
実はジアミンアレルギーの発症率は、一般の方よりも美容師さんのほうが高い傾向にあります。
これは、一般の方よりもカラー剤に触れる機会が多いためだと考えられています。
また最近では、ブリーチ施術の増加の影響か、ブリーチ剤(過硫酸塩)によるアレルギーの報告も見られるようになってきました。
やはり接触機会が多くなるほど、アレルギーリスクは高まるのかもしれません。
※「日本における毛染め剤・パーマ剤関連接触皮膚炎の多施設共同研究」(Contact Dermatitis,2017)
また、手荒れをしている美容師さんほど、ジアミンアレルギーになりやすいと考えられています。
手荒れによって傷ができたり皮膚が薄くなったりすると、ジアミンが浸入しやすくなり、アレルギーリスクが高まる可能性があります。
ヘアカラー前に、お客さまの頭皮に傷などがないか確認しますが、あれはアレルギー予防のためにも、とても重要な作業なのです。
※「ヘアカラーによるアレルギー性接触皮膚炎について」(厚生労働省,2022)
※「職業性皮膚障害分科会報告」(日本産業衛生学会,2017–2019)
また美容師さんの手荒れ予防として、ゴム手袋を着用すると思いますが、ゴム手袋の種類によって「加硫促進剤」という成分が含まれている場合があります。
この加硫促進剤は、ジアミンと同様「アレルゲン」として知られています。
つまり場合によっては、アレルゲンを手にまとわせながら仕事をしていることになりますので、一度ご使用のゴム手袋をご確認ください。
そして皆さんの中には、ラテックス(ゴムの木の樹液)アレルギーの方もいらっしゃるかもしれません。
元美容師の私もこのアレルギーで、いまだに手袋で手荒れやかゆみが起こります。
手を守るはずの手袋で手が荒れるのは、なんとも言えない気持ちになりますよね。
ラテックスフリーの手袋の検討や、私自身の工夫としては、現役の頃、薄手の綿手袋をした上にゴム手袋を着用していました。
体質は人それぞれ違うため、この工夫で絶対大丈夫とは言えないのですが、少しでも参考になれば幸いです。

交差反応
交差反応とは、アレルゲンに分子構造が似た成分によっても免疫が反応して、アレルギーを発症する現象です。
つまりジアミンに接触しなくても、ジアミンに構造が近い成分に触れることで、アレルギーが起こる可能性があります。
ジアミンに構造が似た成分には、やはりその他の酸化染料などが多いのですが、局所麻酔剤(ベンゾカイン、プロカイン)、美白剤(ハイドロキノン)なども知られています。
最近、美容師さんからも、ジアミンと麻酔剤との交差反応について、ご質問をいただきました。
より安全に施術を行いたいという美容師さんの思いを感じています。
この知識があれば、カウンセリングの問診で「麻酔でのアレルギーや、かぶれなどの経験がある」と分かれば、「ジアミンにも反応する可能性がある」と、未然に防ぐことができるかもしれません。
確認事項
ヘアカラーの施術前から施術後にかけての、代表的な確認事項をまとめましたのでご参考ください。
施術前の確認
■肌の状態や体調を確認する。
■麻酔アレルギーや食物アレルギーなど、他のアレルギーはないか確認する。
■ヘアカラーのリスクとパッチテストの必要性を説明し、パッチテストはアレルギーの発生を完全に防ぐものではないことも伝える。
コチラをご参考ください:日本ヘアカラー工業会【皮膚アレルギー試験(パッチテスト)の必要性をご説明ください】
■過去の肌トラブルや違和感(ホームカラー含む)を確認する。
施術中の確認
■かゆみや痛み、異常がないか、こまめに確認する。
■続くかゆみや強いかゆみ、痛み、息苦しさ、めまいなどが現れた場合は、直ちに洗い流し、必要に応じて医療機関へ。重い症状(呼吸困難、意識障害など)の際は救急受診を検討する。
施術後の確認
■かゆみや痛み、異常がないか、再度確認する。
■ご帰宅後に、肌や体調に異変が起きていたら、ご連絡いただくようお伝えする。
■次回来店時に「ご帰宅後、異常がなかったか」を確認し、カウンセリングは毎回きちんと行う。
おわりに
私も美容師時代に、お客さまが遅延型アレルギーを発症され、とても申し訳ない気持ちと、サロン運営に危機感を感じました。
どんなにキレイな色や、かわいいスタイルを作れたとしても、お客さまの肌や髪を傷つけては、元も子もないと痛感しました。
しかしその後、勉強し直したことで、以前よりもヘアカラーの評判が良くなったことも鮮明に覚えています。
私は今後も、皆さんと一緒に勉強しながら、お客さまが笑顔になれるようなお手伝いをしていきたいと思います。
またムーランエムーランでは、ライブセミナーやリアルセミナーを開催しており、ノンジアミンタイプのカラーをテーマとしたセミナーもございますので、是非ご確認ください。
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