【やさしく学ぶ最新の基礎知識】「髪の結合」「架橋成分」
美容師さんの仕事は、髪という素材を加工して、美しいヘアスタイルをご提供することですが、
加工する際に、理論や正しい方法を知っていると成功率が上がるかと思います。
髪に限らず例えば、うどんやパンを弾力のあるモチモチの食感にするために生地を寝かせる理由は、
生地のタンパク質のSS結合を組み替えるためで、職人さんはその原理を活用しています。
たくさんの情報に溢れ、また日々研究が進み理論や薬剤が進化していく中で、サロンワークに大切な知識を
あらためて学んでみませんか?
INDEX
- アミノ酸と主鎖・側鎖・側鎖結合
- 側鎖結合① SS(シスチン)結合
- 側鎖結合② イオン結合
- 側鎖結合③ 水素結合
- 架橋・結合成分とは?
- 【塩基性アミノ酸】を【架橋】①(成分例:グリオキシル酸)
- 【塩基性アミノ酸】を【架橋】②(成分例:レブリン酸)
- 【塩基性アミノ酸】に【結合】 (成分例:コハク酸/リンゴ酸)
- 【システイン】に【結合】 (成分例:活性ケラチン(結合型)/マレイン酸)
- おわりに
アミノ酸と主鎖・側鎖・側鎖結合
髪の主成分ケラチンタンパク質には、20種類ほどのアミノ酸が繋がった主鎖があります。
そして、その主鎖から木の枝のように伸び出た部分を側鎖と言い、さまざまな側鎖結合によって、別の(主鎖の)側鎖と繋がっています。
これによってタンパク質は安定した丈夫な状態となりますが、美容の施術によって結合が切れ主鎖同士が離れると、髪の強度やヘアスタイルの安定性・持ちなどが低下してしまいます。
また各アミノ酸は、酸性・塩基性(アルカリ性)・中性や、水になじみやすい親水性・水になじみにくい疎水性(そすいせい)などで分類されます。
側鎖結合① SS(シスチン)結合
SS(シスチン)結合は、システインというアミノ酸同士が繋がる結合で、側鎖結合の中で最も数が少ないですが、最も繋がりが強い結合です。
通常システインは髪の中でシスチンとして存在しています。
SS結合はパーマ1剤などによって切断され、パーマ2剤などによって再結合します。
側鎖結合② イオン結合
イオン結合は、アミノ酸のプラスイオン(NH3+)とマイナスイオン(COO-)による結合です。
SS結合ほどではないですが、比較的繋がりが強い結合です。
ヘアカラーなどの施術によって髪がアルカリ性になると、プラスイオンが消えて結合が切れます。
施術後、バッファー剤などで中性以下に戻すと、プラスイオンが増加し再結合します。
事後処理のバッファー作用の重要性についてはコチラもご覧ください
側鎖結合③ 水素結合
水素結合は、アミノ酸のC=O基とN-H基や、O(酸素原子)とH(水素原子)による繋がりです。
水によって切れ、水が抜けると再結合します。
側鎖結合の中で最も弱いですが、最も数が多い結合で、親水性アミノ酸が水素結合しやすいと言われています。
架橋・結合成分とは?
2015年頃より、ブリーチのダメージ低減として、通称「プレックス」と呼ばれる処理剤や、髪質改善として「酸熱トリートメント」「3Gトリートメント」などが登場し、現在も新しい商品が開発されています。
そしてこれらには、さまざまな種類の補修成分が配合されていて、難しい印象をお持ちではないでしょうか?
そこで今回、代表的な成分を例として特長などをまとめました。
複雑で難しく感じるこれらの成分ですが、実は主にアミノ酸の側鎖に作用します。
より細かく見ていくと【主に塩基性アミノ酸】や【システイン】の側鎖に対して、【架橋(橋をかける)】または【結合】をする仕組みになっています。
【塩基性アミノ酸】を【架橋】①(成分例:グリオキシル酸)
髪質改善の酸熱トリートメントに使用される成分として、ご存知の方も多いかと思います。
アミノ酸の架橋と弱い還元作用によって、弱いうねりの緩和に働きますが、ヘアカラーに影響が出やすいため注意が必要です。
構造としては、塩基性アミノ酸を架橋しやすい手(官能基)を持っています。
通常、イオン結合などによってゆるやかに繋がりますが、アイロンなどで120~200℃の熱を加えるとメイラード反応が起こり、特殊な結合(イミノ結合)によって強く繋がります。
反面、熱によるダメージへの配慮も大切です。
主に塩基性アミノ酸のリジンやアルギニンに作用しますが、これらはそもそも髪にあまり多く存在しておらず親水性で流出しやすいため、ダメージが進んだ髪では作用しにくい傾向があります。
【塩基性アミノ酸】を【架橋】②(成分例:レブリン酸)
グリオキシル酸と同様、酸熱トリートメントなどに使用され、主に塩基性アミノ酸にイオン結合などによって架橋しますが、性質上、メイラード反応が起こりにくく、グリオキシル酸よりもハリ感が穏やかです。
やはりこちらもダメージが進んだ髪では作用しにくい傾向があります。
【塩基性アミノ酸】に【結合】 (成分例:コハク酸/リンゴ酸)
こちらは塩基性アミノ酸に結合するタイプで架橋は苦手ですが、髪内部の補強や保水効果などがあります。
またこれらは食品業界では、アルカリで変性したシステインと塩基性アミノ酸の結合を防ぐ目的で使用されており、同じ現象が起こる美容の施術においても、今後活用が期待されます。
【システイン】に【結合】 (成分例:活性ケラチン(結合型)/マレイン酸)
システインに対し結合します。
活性ケラチンは、ブンテ塩というSS結合を持っているケラチンで、システインに作用します。
マレイン酸もシステインに作用しやすい性質で、架橋よりも結合が得意な構造となっています。
どちらも特にブリーチなどの施術に向いています。
髪のSS結合はブリーチなどの強い酸化作用でも切断され、システインがすぐに酸化しシステイン酸というダメージ物質に変化します。
システイン酸は、二度と他のシステインと繋がることができないためSS結合が減少し、パーマや縮毛矯正ができなくなる・安定しなくなる、毛髪強度の低下などに繋がります。
ブリーチ剤を塗布する前に、事前処理として活性ケラチンやマレイン酸を使用することで、システイン酸の生成を防ぎます。
パーマにおいては、事前処理や中間処理などで多用すると、2剤でのSS再結合に影響が出る可能性があるため注意が必要です。
おわりに
ブリーチや美髪などの流行によって、今回のような髪の結合に働きかける成分や商品が登場しました。
これからも時代の流れに応じて、新しい商品がたくさん開発されるかと思いますが、それらに振り回されず使いこなすためには「髪に起こっていること」をイメージできるかがポイントです。
今後もそのお手伝いができるよう、さまざまな情報をお伝えしてまいります。
商品教育 桝田