【やさしく学ぶ最新の基礎知識】CMCの基礎
今回はサロンワークにとって、とてもとても重要なCMCのお話です。
しかし実際のところ皆さんは、その大切さをご存じでしょうか?
CMCは髪の中に約5%ほどしかなく、長い間あまり注目されていませんでしたが、
研究が進み、その重要性が見直されています。
では、そのCMCの基礎を見ていきましょう。
INDEX
CMCとは
CMCは、Cell Membrane Complex(セルメンブレンコンプレックス)の略で、キューティクルとキューティクルの間や、コルテックスとコルテックスの間に存在する細胞膜複合体です。
キューティクル同士やコルテックス同士を接着するなど、重要な役割を果たしています。
そのCMCの構造は、サンドイッチのような3層構造になっています。
中心部には、さまざまなタンパク質で構成されるタンパク質層があり、その上下にはセラミド・脂肪酸・コレステロールなどで構成される脂質層があります。
この脂質層において、セラミドと脂肪酸は柱のように脂質層の構造を支えています。
コレステロールは、セラミドと脂肪酸の隙間に存在し、セラミドと脂肪酸をつなぐことで脂質層を安定させています。
CMCの役割
CMCには「接着」と「通り道」といった、大きく二つの役割があります。
①接着
まずはじめにCMCには、キューティクル同士やコルテックス同士を接着し、つなぎ止める、接着剤のような働きがあります。
しかしCMCが、アルカリ剤や還元剤や約60℃以上の熱などによってダメージを受けると、接着性が低下して、キューティクルのはがれや、コルテックスの不安定化につながります。
また接着と言っても、のりやボンドのようにガチッと固めるのではなく、キューティクルやコルテックスが、ある程度動けるようになっています。
髪を曲げたりしても、その歪み(ゆがみ・ひずみ)にあわせてキューティクルなども動けるため、髪は壊れることなく組織を維持できます。
後述しますが、これにはCMCの中のコレステロールなどが活躍しています。
②水分や油分や薬剤の通り道
CMCには、キューティクルなどの組織をつなぎ止める役割だけでなく、もうひとつ重要な役割があります。
それが水分や油分や薬剤の「通り道」としての機能です。
薬剤を例にお話すると、カラー剤やパーマ剤などは、はじめにキューティクル間のCMCを通り、その後コルテックス間のCMCへと進んで内部全体に広がっていきます。
しかしCMCがダメージを受けてしまうと、この「通り道」としての働きが乱れ、薬剤の浸透ムラが起こり、ヘアスタイルの仕上がりに影響が出たりします。
また、薬剤がキューティクルや、キューティクル付近のコルテックスへ過剰に流れ込み、ダメージが広がります。
髪の防波堤のようなキューティクルやキューティクル付近のコルテックスがダメージを受けると、タンパク質などの内部成分やヘアカラーの染料などが流出しやすくなります。
このようにCMCのダメージは大きなダメージへのきっかけであり、例えばCMCをケアせずにヘアカラーなどを行うことは、流出しやすい髪を自ら作ることなのかもしれません。
脂質系補修成分
CMCの補修成分には、どのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、脂質系の補修成分について見ていきます。
タンパク質層の補修成分についてはPPTをご参考ください。コチラをご覧ください:PPTの種類
ヒト型セラミド
ヒト型セラミドは、人の髪や肌のセラミドと同様の構造をした合成のセラミドです。
構造が似ているためCMCになじみやすく、補修や保湿、疎水バリア(余分な水分の浸入を防ぎつつ、うるおいを内部に閉じ込める)などに働きます。
成分例:セラミドNS、セラミドNG、セラミドAP
フィトセラミド(植物由来セラミド)
フィトセラミドは、米ぬかや大豆などから作られる植物由来のセラミドで、人間のセラミドとは異なる構造をしています。
主に髪の表面などに薄い疎水膜をつくり、疎水バリアをサポートします。
成分例:コメヌカスフィンゴ糖脂質、ダイズスフィンゴ糖脂質
疑似セラミド
疑似セラミドは、人間のセラミドに似せて設計されたセラミド類似成分です。
ヒト型に比べ親和性はやや低く、髪表面の保護やCMCの補修などを行います。
成分例:ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、常温で固体の成分で、髪に滑りやツヤを与えます。
髪のCMCには飽和脂肪酸が多く含まれていて、その補修として、同類のこれら飽和脂肪酸が活用されます。
ただし、髪に過剰に蓄積すると、髪の硬化やツヤ低下につながるとも言われています。
成分例:パルミチン酸、ステアリン酸
コレステロール・フィトステロール
コレステロールやフィトステロールは、CMCを安定させながら流動性を高めます。キューティクルやコルテックスが動きやすくなり、しなやかさが向上します。
コレステロールは、羊毛の脂(ラノリン)などから抽出される成分で、しっとり感と髪への親和性に優れています。
成分例:コレステロール
フィトステロールは、植物由来のコレステロール類似成分で、コレステロールに比べ親和性はやや低いですが、しっとり感があるものから、軽く滑らかなものまで、幅広く種類があります。
成分例:フィトステロールズ、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、ヒドロキシステアリン酸フィトステリル
その他(アミノ酸系)
CMCの補修成分には、これまで見てきた脂質系以外に、アミノ酸系の成分もありますので、代表的なものをご紹介します。
トシルバリンNa
疎水性アミノ酸「バリン」の誘導体で、CMC の脂質層とタンパク質層の接合部あたりに作用しやすいと考えられています。
CMCの補修を補助しながら、髪のハリコシ向上などに働きます。
ジラウロイルグルタミン酸リシンNa
親水性アミノ酸「リシン(リジン)」と脂肪酸を結合させた成分です。
構造的には、アミノ酸系の脂肪酸誘導体ですが、効果としてはセラミドのように働くため、疑似セラミドとも呼ばれます。
髪表面の保護や、CMCの補修などを行います。
ナノサイズの脂質補修成分
従来の脂質補修成分は、水溶化しにくく、また分子の大きさなどから、キューティクル付近のCMC補修を得意としています。
これに加え2000年頃から、脂質成分を極小のナノサイズにする製法(ナノカプセル化)で作られた成分も登場しています。
この成分は、髪内部への浸透が得意で、これによりCMC補修は従来成分との併用で、外部から内部までケアできるようになりました。
(ナノとは、ナノメートル(nm)という単位の略で、1メートル(m)の10億分の1という小ささ)
成分例としては、セラミド・コレステロールなどをナノカプセル化しミックスした、CMCに幅広く働きかける原料や、アニマルフリーなどの時代性を反映した植物由来のフィトステロールと、脂肪酸などをナノカプセル化しミックスした、補修と質感を兼ね備えた原料などがあります。
おわりに
先ほど「CMCのダメージは大きなダメージへのきっかけ」と書きましたが、これを家に例えると、雨漏りなどに似ているのかもしれません。
屋根や外壁の接着や接合が弱くなり、隙間ができ、周辺の木材などが腐ったりすることで、隙間が大きくなっていきます。
その状態で(人間が入浴するように)毎日、大雨に打たれたり水浸しになったりすれば、損傷は全体に大きく広がります。
髪では、その大きなきっかけがカラーやパーマとなるわけですから、事前処理や施術後のケアなどは、きちんと行いたいですね。
最後に余談ですが、カラー剤やパーマ剤、ヘアケア製品やスキンケア製品などに、幅広く使用されているカルボキシメチルセルロースという成分があり、これは主に粘性を与える増粘剤として使用されています。
このカルボキシメチルセルロースは略してCMCと呼ばれることがあり、今回のCMC(セルメンブレンコンプレックス)と、混同される方もいらっしゃるようですので、皆さんもご注意ください。
次回のテーマは、今回のCMCと関係の深い「キューティクル」と「髪の保護成分」の予定です。
是非ご覧ください。
商品教育 桝田